ラボサラリーマンの勉強部屋

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【研究職サラリーマン】基礎研究と応用研究、どちらを選ぶべきか

こんにちは!ラボサラです。

 

 今日は化学メーカーで研究職として5年ほど働いてきた私が、研究職の種類(基礎研究と応用研究)とその実態について話してみたいと思います。

現在学生で、将来的に企業で研究職につきたいと思っているかたにとって、自分がどんな仕事をしたいのか、その方針を決めるための参考になれればと思います。

研究職という仕事と接点がなくて前提知識なんかない、という人にも読みやすい内容にしているので、興味があれば是非お読みください。

ゆっくり読んでる時間がない方や、基礎研究と応用研究の比較について早く知りたいという方は基礎研究と応用研究、どっちがいいの?の部分を読んでみてください。

研究職の種類 ~基礎研究、応用研究、生産技術

 まず、企業における研究職の分類について簡単にお話しします。

研究職には大きく分けて3種類あります。

基礎研究応用研究そして生産技術です。

 

基礎研究とは、将来的な製品化を目指した新規アイテムの開発を行う研究です。

一方で応用研究とは、既に商品化されたアイテムを取扱い、顧客のニーズを基に既存製品の改良していく研究のことを指します。

そして生産技術とは、工場での製品製造を安全かつ効率的に実施するためのプラント設計を考えるための部署で、反応工学などを専門にしている研究者が所属します。

傾向として、大学で反応工学を専攻してきた人が採用されるので、それ以外の専門分野のかたにとっては、仕事として選択肢に入ることはあまりありません。

 

会社によっては呼び方が違ったり、分類についても異なることがあるかもしれないですが、その点についてはご了承ください。 

この記事では、多くの大学院生にとって選択肢となる基礎研究と応用研究について詳しく書いていきます。

(生産技術についてはあまり比較対象となることがないのでここでは割愛させてもらい、別記事にて語りたいと思います。)

 

基礎研究の仕事の特徴

 「仕事は研究です」という話を聞くと、多くの人は「白衣を着て試験管を振って実験している」という姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

実際、手で試験管を振るということはないのですが、「基礎研究」というのはそんな「研究職」という典型的なイメージに近い仕事です。

とはいえ、大学での研究と比べると実験以外の仕事の割合も多く、会議・ミーティングの多さに頭を悩ませるのは他のサラリーマンと同じです。

 ではもう少し具体的に、「基礎研究」という仕事がどういうものかを見ていきましょう。

新規製品を生み出すために新しいものを研究対象にする

 上述したように、基礎研究というのは新しい製品を生み出すための研究です。

0から1を生み出すための研究とも言えます。

とはいえ大学のような学術機関ではないので、「新しければ良い」というわけではなく、製品化できるかどうか(=売れるものかどうか)という視点が何よりも大切です。

どちらかというと、目新しいものを作っている大学やベンチャーに目を付けて、その技術や製品をいかに自社にメリットのある形で取り込めるかを考えることが多いです。

そういう意味では「0から1を生み出す」というよりも「0から1を生み出す研究をよそから見つけてくる」と言った方が近いかもしれません。

 

一方で、住友化学などのいわゆる財閥系と呼ばれるような巨大化学メーカーになると、自社内に大学と近いレベルでの基礎研究機関を持っているという話を知人から聞いたことがあります。

当面の利益を度外視で0から1を生み出す研究を行えるというのは、別の事業で収益が確保されており企業として体力があるからこそでしょう。

 

社外での有望な共同研究先を見つける

 実際に、大学研究室に資金提供をして共同研究という形で研究を進めることもよくあります。共同研究というのは、平たく言うと「研究のためのお金をあげるから成果はこっちにも分けてください」と大学にオファーを出して一緒に働くというものです。

場合によっては大学の研究室の技術を学ぶために、社員を派遣して大学内で研究をさせることもあります。そうなると会社員というよりは学生・研究員という感じになります。(このスタイルは会社全体から見ると割合としては少ないですが、大学での研究活動が好きだった人にとっては楽しい仕事になるでしょう。)

有望な共同研究先を見つけるためには、その分野の専門的な知識を身につける必要があります。

そのため、日頃から論文などの学術文献や特許を読んで情報収集・勉強する必要があります。

 技術革新が目まぐるしく起こる現代においては製品寿命がどんどん短くなっており、その分、新規開発にもスピード感が求められます。

何年も腰を据えてじっくりと製品開発の検討を行うというスタイルはどんどん減ってきており、逆に大学やベンチャーとの共同研究という形での仕事が増えています。

売れる見込みがなければ学術的に研究として面白くても打ち切られてしまいます。

自分が「面白い、将来性がある」と思っているテーマでも打ち切られてしまうというのは研究者としては辛いところです。

 (とは言え将来性の判断は難しく、ズルズルと10年くらい続いているテーマもチラホラとあります。それが良いのか悪いのかは人によって感じ方は違いますが。。)

 

残業は少ない?

 一般的に基礎研究は特定の顧客がいるわけではないので、締め切りに追われる仕事というのは少なく、そのため後述する応用研究と比べると残業は少ない傾向にあります。(もちろん所属する部署や会社によっても違うとは思います。)

ある程度、自分で仕事の裁量を決められるため、「今日は仕事後に予定があるから残業なしで帰ろう」ということがしやすいです。

一方で、常に新しい情報を仕入れておくことが仕事において大切なので、自分のテーマに直結しないようなことでも幅広く勉強する必要があります。

仕事に直結しないことも多いので、文献調査の時間を残業としてつけてよいかはグレーだったりします。

 

やりがいを感じにくいかも

 新しいものを生み出す仕事というのは、何も生み出さない期間が長い仕事でもあります。

ほとんどの新規研究テーマは芽が出ないのが普通で、ましてや大企業になればなるほど新しいテーマでもそれなりに大きな売り上げを想定しないといけないので、そのハードルは非常に高いです。

(市場の伸びが期待できず、売り上げも小さい事業分野にはなかなか参入しづらかったりします。)

新規テーマを立ち上げることなく社会人生活を終えてしまうような基礎研究者も多いのではないでしょうか。

基礎研究の特性上、「会社や社会に貢献できている」という感覚はなかなか感じづらいです。

そのため、純粋に新しいことに挑戦するのが好き、研究という仕事が好き、というタイプの人でなければ仕事としてモチベーションを保つことが難しいかもしれません。

 

良くも悪くも「自分次第」な側面が強いのが基礎研究の特徴と言えますね。 

 

応用研究の仕事の特徴

 ここからは応用研究について、その特徴を紹介していきます。

応用研究とは、会社内の既存の製品の改良を行うことで顧客のニーズに応え、それにより売り上げを伸ばしていくことがメインの仕事となる研究です。

基礎研究が0から1を生み出すのに対して、応用研究というのは1から10、10から100へと増やしていく仕事、というイメージです。

会社の事業として既に成り立っている研究なので「事業部研究」と呼ばれたりもします。

顧客との繋がりが強い

 これは当然のことではありますが、既に製品化して顧客がついているものを扱うので、その顧客の評価というのは非常に重要な研究指針になります。

そのため、営業とともに顧客から既存品の評価をヒアリングしに行くことも多く、その情報を基に方針を決めて品質改善に努めます。

顧客の声ありきで仕事をするというのは、時に無茶ぶりに応える辛さがありますが、進むべき道がはっきりとしているという意味ではやりやすさもあります。

(応用研究の部署で働く同僚からは、ほとんどが無茶ぶりだという声も上がっていますが。笑)

 

応用研究は肉体労働⁉

 応用研究の部署における実験では、顧客にある程度の量をサンプルとして提出する必要があることと、実際の製品プラントを模した形状の反応釜(=製品を作るための容器)を用いる必要があり、実験のスケールが基礎研究と比べると大きくなります。

基礎研究では100mLからせいぜい1L位のガラス容器で実験するレベルですが、応用研究では、20~30Lくらいの金属製の容器を用いることも日常的にあります。

スケールが大きい分、実験作業自体も大変で、実験中は安全性を考えて二人以上で作業する必要があることも多いです。

また、顧客に提示するためにとにかく沢山のデータが必要になることもあり、考え得ることをひたすら実験データとして集めていくこともあります。そうなると、頭を使うよりもひたすら体を動かして仕事をする、という場面も増えてきます。

こういった事情から、応用研究では基礎研究と比べると肉体労働的な側面が大きくなりがちです。

 

残業が多い

 顧客からの製品改善要望に応えるということは当然のことながら納期が存在するわけです。

その納期に間に合うように結果を出す必要があるため、応用研究の部署は一般的に残業が多くなりがちです。

端から見ている印象だとほとんど年中通して忙しいイメージがあります。

もちろん部署や担当テーマによって変わりますが、全体として見ると基礎研究と比較したときに残業時間はやはり多くなる傾向です。

 

やりがいは感じやすい

 顧客対応を仕事としている場合、自分の研究の成果が直接評価されるため、やりがいは感じやすい仕事だと思います。

また、既に売り上げが立ち成長している事業ということは、新規事業と比べると規模(=金額)が大きいので、自分の成果がいくらくらいの仕事になったのかが可視化しやすいというのもモチベーションに繋がるポイントです。

 「この製品の改善で〇〇億円売り上げが上がった!」なんてことも実際にあり得るのです。

 

スキルが身に付きにくい

 一つの製品の改良に携わる場合、細かな条件のチューニングをすることになり、日々の仕事は同じような作業の繰り返しになりがちです。

また、上記の通り残業が多く忙しい日々を過ごすことが多いため、新しいことにチャレンジする余裕がなくなりやすい環境でもあります。

そのため、研究者として身につけられるスキルは限定的になりがちです。

企業で勤める研究員としてレベルを上げたいのであれば、日々の業務に忙殺されずに自分の意志で積極的に新しい知識・技術を身につける姿勢が大切になります。

 

基礎研究と応用研究、どっちが良いの?

 ここまで基礎研究と応用研究の両方について、その仕事の特徴を述べてきましたが、なんとなくでも違いを感じることが出来たでしょうか?

それでも「結局自分はどっちが向いているんだろう?」と悩む人もいるかと思います。

以下に両者を比較してみるので、自分ならどちらにより多く当てはまるかを確認してみてください。

 

① ハードルが高くても世の中にない新しいものを創り出したいなら基礎研究、既存製品の価値を広げて分かりやすく利益の拡大に貢献したいなら応用研究
② 自分でひたすら考えるのが好きなら基礎研究、とにかく手を動かして結果を出すのが得意なら応用研究
③(仕事の内容は別として)残業が少ない方がいいなら基礎研究、QOL(Quality of Life)を多少犠牲にしてでも仕事にやりがいを感じたいなら応用研究
④ 幅広く自分の研究者としての知識・スキルを活かしたいなら基礎研究、特定の分野に深く精通して社外の顧客と信頼を築きながら仕事を進めていきたいなら応用研究

 

上記の判断基準はあくまで大まかなものです。

基礎研究でも開発品を潜在顧客に提出し、その潜在顧客にサンプルの評価をヒアリングに行くことはありますし、応用研究でも新規分野への展開のために様々な文献調査が必要なことも多々あります。

とはいえ、「全てケースバイケースです」と言ってしまうとあまりにも漠然としてしまい、方向性が定まらないのでざっくりとした分け方をさせてもらいました。

 

少しでも化学企業の研究職へ就職を検討している人の助けになれば幸いです。

 

ラボサラの個人的経験と見解

 最後に、私ラボサラの個人的な経験について述べさせてもらいます。

私自身は就職して5年の間基礎研究の部署で働いてきました。

基礎研究と言っても、3年目からは(幸運なことに)製品化間近のアイテムを取り扱うテーマに携わらせてもらっており、基礎研究と応用研究の中間みたいな仕事をしていました。

 

入社直後に担当させてもらった基礎研究のテーマでは、右も左も分からない状態で新しいアイデアを求められ(もちろん基礎的な知識については色々と教えていただきながらですが)、自分のアイデアを実証すべく実験を行い、得られたデータについて遥かに年上の上司とも対等にディスカッションさせてもらいながら新規開発を行いました。

自分のような新米にもできることがある、という感覚が嬉しかったですし、新人ならではのアイデアで多少なりとも良い結果を出せた時は手応えを感じることもありました。

基礎研究というのは、社内の誰もが未経験の分野を切り拓いていくということなので、キャリアに関係なく結果を出すチャンスがある仕事だと思います。

 

一方で、多少良い結果を出せたとしても、製品化とは程遠い段階にあるのですぐにテーマが打ち切りになってしまうことも当然のようにありました。

その点、3年目から携わらせてもらっているテーマは製品化間近で、大規模生産することさえできれば売れることはほぼ確実という状況でした。

「これをクリアすれば〇億円の売り上げ」といった感じで成果を実感しやすいため、大変な仕事ではありましたが、テーマ自体の有望性について疑問を持つ必要がなかったため、やりがいを持って仕事を進められました。

 

上記でも説明した通り、基礎研究と応用研究のどちらが良いのかというのは人によって変わるのですが、私個人の意見としてはせっかく企業での研究を仕事とするのだから、応用研究は経験してみてほしいです。

応用研究というのは、その企業の利益の軸(の一つ)となる事業なので、その企業独自の強みを理解することにもなります。

また、大学の研究とは進め方も求められる結果も違うので面白いと思います。

 

 基礎研究・応用研究どちらにしても、研究職という仕事は世の中にない新しいものを創り出す価値ある仕事です。

日々の業務は時に単なる肉体労働となることもありますが、それでも基本的には高い専門性が必要とされます。その専門性を存分に発揮して、そこから価値を生み出すことが出来ればそれは自分にとって大きな自信、誇りになります。

 

 長くなってしまいましたが、少しでも研究職のことについて理解を深められたでしょうか?

この記事を読んで一人でも「研究職という仕事に興味を持った!」「就職のための参考になった!」という人がいてくれたなら、私としては何よりの喜びです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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